私が屋台を営んでいた頃、それは常連ばかりのちいさなおでん屋でしたが、仕込みには昼からかかり、味がしみこむまでゆっくりと煮て、煮汁がにごらないように気をつけながら、たくさんの口笛を吹きました。
不思議なことには、その口笛は電話線を通って、街中の人の耳に届いたのです。なぜか、だれの話し声の後ろにも、私の口笛が聞こえていたのでした。
メモリーカードを携帯に入れて、たくさんのことを話しました。生まれて、学校にいき、登校拒否になり、冷たい海に入って、また、濡れたまま学校に戻り、誰にも何を言われてもなんとも思わなくなって、卒業し、それで、会社に入ってからもよく机を叩いてくびになって、それで、会社に火を付けようと思っているうちに泣けてきて、やめて、宗教をウロウロしているうちに、言葉が降りてくるようになって、そのうちに、信者ができて、小さな家で共同生活をしているうちに、煮詰まってきて、主な原因は性関係の乱れで、そのころには言葉は降りてこなくて、灯台の写真のポストカードに伝言を書いて、家を出て、しばらく売春をして、そして、いま、冷たい海に入っています。